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クイック・ドローイング(クロッキー)

今回はクイック・ドローイング(クロッキー)について説明しましょう。

これは対象物の全体像を限られた時間の中で素早くとらえる事によって余分な物をそぎ落とし、本質をといらえる練習にもなりますし、これ自体が、すばらしい芸術作品とも成りえます。
また、作品にとりかかる前に30分でも行なえば、調子も良くなります、まあ準備運動のような物ですね。

一番良いのはきちんと対象物(人物や動物等)を前にして描くことですが、モデルが見つからない時や時間の無い時等は写真からでも十分練習にはなります。ただ、写真からばかり描いているとモデル等を前にした時に描けないので、バランス良く練習してください。

まず私の左のクロッキーを見てください、これは2分のクロッキーでささっと描かなければ上半身だけで終わったりします(笑)
とにかく悩まず描いてください。描いている途中で間違っていると思っても気にせず全体を描く事を奨めます。
この私の絵の中でも右下のクロッキーは上半身が大きいような気がしますね、これは紙の中に足先まで入れようと途中で調整したからです。つまりプロでもこの程度ですから(笑)


またこちらの絵は5分程度です、こちらは全く逆光だったので体の細かな部分は気にせず鉛筆(コンテペンシル)を寝かせてザザーと描きました。


これは25分程度、上半身を丁寧に描いて色鉛筆でちょっと色を入れました、色が入ると出来上がり感が増しますね(笑)こうなるとデッサンという時間帯でしょうか?

ではここから説明をさせていただきます。
今回は皆さんにわかりやすいサンプルという事でミケランジェロのダヴィデ像を元に解説していきます。

まずはダヴィデ像をゆっくり見てください。 光は上から当たっています。

また体は右足(向かって左)に体重をかけているので、当然骨盤は右が上がっていますね。 しかし肩は逆に右(向かって左)が下がって左が上がっています。 これは片方の足に重心をおくと人間は自然とそうなるように出来ているからです、詳しくは医学書かなにかで調べてください(笑)

さらに、この場合背骨は弓形に曲がります。 まずこれらを見て感じでください、この体の動き(流れ)を理解せずには魅力的な人物像は描けません。

では実際に描き始めます。 まず頭蓋骨を想像しながら丸を描きます、この丸は髪の毛を取った地肌の部分から鼻の辺りまでで丸くなるような感じで描いてください、アジア人とヨーロッパ人とでは多少この丸さにも違いがありますが、クロッキーを描く場合全く気にしなくても大丈夫です。
次に顔がどちらを向いているか決めるために顔の前面に縦の線、また顎の線も書き入れます。 これで何となく顔の角度や方向がつかめるはずです、特に時間の短いクロッキーなら顔の部分はこれで終わってもかまわないでしょう。

次に上半身です、まず首を描きます、そしてそこから肩の線(先ほど書いたように片方は思い切って下げます)そこから体の両側の線、当然肩が下がっている方はより内側へ向かってのびていきます、反対の上半身の線は逆に少し外側へ向かうように降りていきます。

それから腰です、これは人物を書く場合最も動きを表現できる所です。 腰は骨盤の上の線、このダヴィデの場合おへそと性器(すみません)の間で体に両側で足の付け根より上にある線です、よく見るとこの線をつなぐと、肩とは反対が下がっていますね、これをきちんと捉えればもう完成したと同じような物です。

そのあと女性でいうビキニラインを引きます。 この時点で顔の方向、胸の方向、腰の方向が捉えられている事が重要です。

次にヌードの場合「乳首」と「へそ」はその後のディテールを描き込んで行く場合の大切なランドマークとなりますので出来るだけ正確に入れてください、私は確認のために乳首の線をつないで写真のダヴィデと比べてみました。
その後足を描き始めますが、まずは全体の感じをさらっと描いてみます。

次に反対の足も。姿勢を考慮しないと何となく斜めに突き出した左足の方が長く感じられますが、これは腰が傾いている事と足の甲を前に出しているからですね。
膝の位置に気をつけてください。まず膝頭の上の部分を見つけ線を引きます、その後膝頭の下の線。
また、この時点では描いてはいませんが、踵がどこにあるかを強く意識して理解していてください。

そして肩から腕をつけていきます。
これも足と同じように方向を正しく、全体を描きます、間違っても筋肉を一つ一つ丁寧に描いてやろう等とは考えないように。

のばした腕は腰のどの位置まで来ているか、体と比べながら描きます。曲げた腕も肘の下の部分が体のどの部分に当たるのか、この場合へそから横に延ばした線より少し上だなという確認をしながら描いてください。
ここでさっき書いた「へそがランドマーク」の意味がわかると思います。
さて、ここまででクロッキーは終わってもかまいません。
これだけ描けば体の動きは十分に表しているからです。
練習としてはここまでを何枚も描いて基礎力を養ってください。
ここからは中級編です。
まず両脇から腰にかけて対象物をよく観察しながら線を加えます。
この場合も先ほどの体の動きは決してこわさないように肉付けをする感じで描いていきます。
先ほどの線より濃く描いていっているのがわかりますか?
このように最初は薄めに描き始めるようにすれば、ほとんど消しゴムを使う事無く最後まで絵が描けます。
消しゴムは最後にどうしても気になる線だけを消すという感じの方が良いと思います、実際今回のこのクロッキーでは私は全く消しゴムを使っていません。

同じ要領で足も肉付けをしていきます、太もものラインは対象物をよく見て膨らんでいる所と締まっている所の位置を何度も確認してください。
足先は足袋を履いているような感じで十分です、下手に描きすぎると返って目立ってしまいます。
手も基本的には親指と他の指という分け方で構いません。

ここまで描いたら頭も描きましょう、顔をかく場合耳の位置は重要です、これだけで、顔がどちらを向いているのか、角度はどうなのか上か下か等すぐにわかるので、よく見て描いてください。
最初に描いた丸の上に髪の毛が載るような感じで。
ここまでで中級の方は十分です、無理に先に進むよりここまでを何度も練習して自分の物にしてください。

上級編
ここからは上級編として立体感をつけていきましょう。
ここからは感覚としてはクロッキーよりデッサンという感じです。

立体感は線の方向と影で作ります。
まずは向かって左側の脇の部分に線を引いて影の部分を描いていきます、こういう線も体に沿って立体感を出す助けになるように引いてください。
太腿もそうですね。腿の丸みが出やすい様に筋肉の方向に向かって線を引きます。

また逆に軽く前に出した左足(向かって右)は影の中なので立体感を少し殺すようにわざと斜め線を引いています。

これで完成です、元のダヴィデの写真と比べてみるとより後ろに反って動きが強く表現されていますね、あまりそういう事を意識していたつもりは無いのですが、描き終えて良く見直すとこうなってました(笑)
これを良しとするか良くないとするかは多少意見の分かれる所も有りますが、今回はクロッキーなのでご愛嬌です。

最後にアニメーションにしてみましたのでこちらでご覧ください、おそらく自動で2秒ごとに3−4回繰り返すはずです。

 

画家の言葉:

今回紹介したクロッキーはあくまでも私が習得した一つの方法です。
他にも描き方はいくつも有りますし、ご自分で描きやすい方法が有ればそれを実践すべきです。
絵画の良いところはいろいろな物にとらわれずに自由に自分を表現する事でもあります。
しかし、上に書いた情報が少しでも皆さんの絵画の助けになれば幸いです。

また次回、日本に帰国した時にでも、場所とモデル(プロでなくても結構です)をご用意いただければ上記のようなドローイング(デッサン)のデモンストレーションでしたら喜んでお引き受けしますのでご遠慮なくお問い合わせください。

同時に絵を勉強している人からの質問を受け付けています。 初歩的な事でもどんな事でも遠慮なくどうぞ。

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Keep Painting!
Nobu Haihara